基本再生産数は、病原体の感染力を示します。ある感染者がその感染症への免疫をまったく持たない人の集団に入ったとき、感染力を失うまでに平均で何人を直接感染させるかを指すものです。WHOは、新型コロナの基本再生産数の暫定値を1.4~2.5としています。8~10の水痘(水ぼうそう)や16~21の麻疹(はしか)より低く、2~3のインフルエンザ並みだとしています。基本再生産数は人間が何の対策も取らなかった場合の数値であり、病原体の素の感染力を示しています。
一方、実効再生産数は、さまざまな対策を取った後の感染力を示しています。手洗いや外出制限などの対策が取られれば、1人の感染者が実際に直接感染させる人数は減少します。実効再生産数が大きいほど、感染拡大のスピードは速く、新規感染者数は多くなります。実効再生産数が1未満へ低下すると、新規感染は減少に転じます。実効再生産数がさらにゼロまで低下していき、感染は終息します。
感染拡大の行方を左右するのは、再生産数と同様、集団免疫率です。感染拡大が進むと、免疫を持つ既感染者が増えます。既感染者は未感染者にとって盾の役割を果たし、感染の連鎖を遮断するため、実効再生産数は既感染者の増加とともに自然と低下していきます。既感染者数の人口比を集団免疫率と呼びます。
現在、先進国で取られている戦略は、人の接触削減で実効再生産数を下げて、新規感染者数の山を後ずれ・小さくさせておき、最終的にはワクチン実用化によって人工的に集団免疫を達成するというものです。諸外国では、実効再生産数を1未満にすることが、経済活動再開や制限解除の目安となっています。接触削減の対策を緩めれば、その途端に実効再生産数は、再び基本再生産数に向けて上昇してしまいます。感染拡大が鈍化したり、減少に転じたりしても、まだ感染しうる人が多く残っており、感染拡大の第2波の可能性は残されたままです。感染かワクチンによって集団免疫を獲得するまで、接触削減の政策を弱めたり強めたりしながら続けることになると思われます。
(吉村 やすのり)