夫婦がそれぞれの姓のまま結婚できる選択肢をつくる民法改正法案の要綱が、1996年に法相の諮問機関である法制審議会で答申されました。しかし、伝統的家族観を重くみる自民党議員の反対が根強く、政府の改正法案は国会に提出されていません。日本以外に法律で夫婦同姓を義務付けている国はありません。
1999年に施行された男女共同参画社会基本法に基づいて、5年ごとに策定される基本計画では、第4次計画まで選択的夫婦別氏制度という言葉が入っていました。しかし、第5次計画ではなくなり、家族の一体感など慎重な文言が加わっています。
内閣府の世論調査で、法改正への賛成は増えています。2012年には、法改正に賛成する人と反対する人どちらも約36%と拮抗していましたが、2017年には、賛成が42.5%になり、反対は29.3%を上回っています。賛成する人のうち、実際に法改正された場合に、夫婦別姓を希望するという人は約2割いました。
選択的夫婦別姓は、同姓と別姓のどちらが伝統か、男女平等か、正しいのかということではありません。選択を認めるかどうかの議論です。日本の伝統や姓が同じだと家族の絆が深まるといったスピリチュアル(精神的)なものを信じる自由が否定されるわけでもありません。
現在検討されている法制度は、同姓を求める人と別姓を求める人の双方の自由を守る戸籍に変えようというものです。同姓がいい人に強要するものでも、誰かを傷つけるものでもありません。子どもがかわいそうだという主張には合理的な根拠がなく、親子の姓が違っていじめが発生するなら、それは制度ではなく社会の側の責任です。
夫婦同姓でなければならないとする現行法において、不利益を被るカップルがいたり、事実婚を選択せざるを得ない状況が現実に起こっています。最高裁は、昨年12月に第2次夫婦別姓訴訟の一部を再び大法廷で審理すると決めました。国会での議論が停滞する中、判決が注目されています。
(2021年1月17日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)