庶民が姓を名乗るようになったのは、明治時代からです。戸主が家を統制し、夫が妻より優位に立つ家制度もできて、家に入る=夫の姓を名乗ることが習慣になりました。戦後は新しい民法が定められましたが、夫婦同姓の原則は変わりませんでした。ただ、今の民法では、夫と妻どちらかの姓を選んでもいいことになっています。それでも家制度の名残から、夫婦の96%が夫の姓を選んでいるのが現実です。
姓を変えることで、仕事や生活上の不都合もあります。姓の変更手続きが大変だったり、離婚した場合また旧姓にもどさなければなりません。結婚後に旧姓を通称として使う女性も増えてきたが、パスポ-トは戸籍名のため、海外で仕事をするときには不便です。運転免許証や健康保険証は戸籍名になるため、本人確認のために提示をもとめられたときに困ることもあります。
希望すれば、結婚後も夫婦が別姓を選べるような制度の導入案は、1996年に公表されています。しかし、家族制度が崩壊すると、保守系議員からは反対の声も上がっています。また夫婦別姓を認めると、親子が別の姓になり、よくないという意見も根強いものがあります。国会の審議が進まない一方で、最高裁で審理されることになっています。近い将来、夫婦の姓の選択枠が広がるかもしれません。
(2015年4月9日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)