イノベーションの恩恵を社会に偏りなく広げるには、女性のSTEM人材育成が不可欠です。STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の総称です。文部科学省の学校基本調査によれば、保健や農学も含めた理系の学部生の女性比率は38%です。工学系では16%にとどまっています。理系を目指す女性は増えてはいますが、国家資格に直結する医薬系が多くなっています。日本では、理系の研究職・技術職に占める女性の割合は17%に過ぎません。海外でも女性の研究者男性よりも少ないのですが、英国の39%や米国の34%などと比べても日本は少なくなっています。
労働力人口が減る中、生産性向上という観点からもSTEM分野の強化は必要です。均質な集団では、社会の様々な問題を解決できません。多様な人材が欠かせず、女性の参画は重要です。ものづくりや研究は、性別を含め色々な目線があった方がより良いものができます。しかし、理工系の学部を出た後のキャリアプランが社会に十分浸透していないことが問題です。若いうちから、理工系志望の女子生徒のコミュニティーづくりを進めることが、女性のSTEM人材育成につながります。
女性が理工系に少ないことは、女性に不利益をもたらします。例えばシートベルトは男性の体形を元に設計されており、交通事故では女性の方が重傷を負いやすくなっています。体調管理アプリでは血圧や心拍数だけでなく、生理周期など女性特有の数値の把握も求められますが、開発者が男性だけだとこうした視点を取り込むことは難しくなってしまいます。
(2021年2月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)