総務省の労働力調査によれば、女性管理職の割合は13.2%に過ぎません。日本で意思決定に関わる女性はまだまだ少数派です。部下を持ったとたん周りは男性ばかりで、会議で発言しても変に注目を浴びてしまったり、妙にしらーっとした空気が流れたりします。環境を整えないまま形だけ女性を登用しても、あまり良い結果にはなりません。
2021年の帝国データバンクの女性登用に対する企業の意識調査によれば、5年前より女性の管理職が増えたとする人は2割前後みられますが、今後変化なしと回答する女性が6割を占めています。役員にいたっては、9割以上が増えないと予測しています。
女性を管理職から遠ざける大きな要因の一つに、好意的性差別があります。子育て中の女性に責任の重い仕事を最初から割り振らないこともこれに当たります。一見、女性への配慮のように見え、女性側も差別とは気づきにくいのですが、本人の意思に関係なく大変そうだからと経験を積む機会を与えないとしたら、結局は女性をステレオタイプに基づく固定的な性役割に押し込めてしまうことになります。また、チャンスを与えないことで、女性の昇進意欲をそいでしまう危険性もあります。
こうした性差別は、企業にとっては人材流出のリスクにもなります。女性の離職の原因と言えば、結婚や子育てをイメージしがちです。しかし、大卒以上の女性が初職を辞めた理由を細かく見ると、キャリアの先が見えない行き詰まり感から転職する女性が多くなっています。女性に配慮したつもりが、優秀な人材の離職を招く自己矛盾に陥っているのです。
企業にとって、新たなイノベーションを起こすには、上司が部下を引っ張る従来型のリーダーシップよりも、丁寧なコミュニケーションを通じて部下の潜在能力を見い出し、その能力が開花するようサポートする力が求められる時代になっています。決断力や実行力といった従来の管理職の価値観だけではなく、人々の認識もそろそろ画一的なリーダー像から脱却すべき時です。
新型コロナの感染拡大で、誰もが何が人生において大切なのかを改めて考えるようになりました。長時間労働も、もはや子育て中の女性だけの問題ではありません。労働力不足が叫ばれる中、誰にとっても働きやすい職場を作ることが、企業の生き残りを左右すると言っても過言ではありません。これからの時代、女性活躍に限らず、ダイバーシティーがうまく機能しない企業に成長はありません。
(2022年8月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)