妊産婦のA群溶血性連鎖球菌感染症

 A群溶血性連鎖球菌(Group A Streptococcus:GAS)は、健康であっても皮膚や上気道に保菌されていることがあり、上気道炎や化膿性皮膚感染症の原因菌としても珍しくありません。発症機序や病態生理は不明ですが、筋肉等の軟部組織壊死から敗血症ショック、多臓器不全を来すような劇症型GAS感染症もあり、注意が必要です。妊産褥婦はハイリスクであり、日本では褥婦より妊婦での発症数が多くなっています。

 ほとんどが経産婦であり、感染経路としては、従来報告されていた経腟的な上行感染ではなく、70%以上で上気道感染が先行しています。経産婦がハイリスクであると考えられる理由の一つに、学童期の小児のGAS保菌率が高いことが関係しています。健康な成人においてGAS保菌者は稀ですが、学童期の小児の15~30%はGASを保菌しているとされ、GAS感染症のキャリアとなり得ます。学校や家庭などでのGAS上気道炎の集団感染もみられることから、学童のいる妊婦は注意が必要です。また、初夏や冬に流行することが多いのも特徴的です。

 劇症型GAS感染症は、咳が出ない、咽頭の白苔などの特徴はあるものの、他の上気道感染症との臨床上の区別が難しく、見逃されることも多くなっています。発病からの病状進行は非常に急速で、発病後数十時間以内に軟部組織壊死、多臓器不全、DICを来すことがあります。産科的には著明な腹痛や子宮収縮、性器出血、胎児死亡を来すことが多く、報告された死亡例を解析しても胎児機能不全や常位胎盤早期剝離として対応され、劇症型GAS感染を疑う機会を逸したケースが散見されます。妊産婦でGAS感染の確証が得られなくても疑わしい場合には、早めの抗菌薬(ペニシリン)投与が推奨されています。

(日本産婦人科医会報 2024年12月号)
(吉村 やすのり)

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