少子高齢化社会に突入し、年を取っても働き続ける、わが国はそんな社会に近づいています。一方で、産業構造の変化などから、企業でベテラン社員が築いてきたスキルと業務がかみ合わず、やる気を失っているといった現実もあります。また、長年勤めていたら世の中が変わり、経験やスキルを発揮できる担務や居場所は社内で与えられなくなる状況もあります。このような働きたくても働く場所がない、働かない中高年を「妖精さん」と呼ぶようになってきています。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少傾向で、年金など社会保障制度の担い手不足は深刻になっています。政府はすでに、高齢でもできるだけ長く働ける社会の実現に向け、突き進んでいます。社員が希望すれば、70歳まで働ける機会を確保する努力義務を企業に課す法改正案を通常国会に出す予定で、来年4月のスタートを目指しています。将来は義務化も検討するとしています。
これまで、日本は年功序列や終身雇用を前提としたメンバーシップ型社会として発展してきました。一方、欧米は、ジョブ型社会です。まず職務があり、それをこなせる人をその都度採用します。仕事がなくなれば整理解雇されてしまいます。これまでの日本の企業形態であった年功序列が崩れかけている中、若い世代から見れば、働かない中高年は非効率と不公平以外の何ものでもないでしょう。
妖精さん問題が浮上したのは、少子高齢化と人口減少を背景に、日本社会が変化せざるを得ない状況に追い込まれているからです。成長力の鈍化を前に、日本型雇用システムの負の側面が目立ち始めています。働く側の立場が強ければ、賃金や待遇を切り下げられる恐れも減るでしょう。企業の側も、非正規労働者を使い捨てにする一方で、働かない正社員を座視していては、優秀な人材が集まらずに立ちゆかなくなります。人口減少という危機が、逆にチャンスになるのではないでしょうか。人手不足で売り手市場なら、ジョブ型正社員を導入して転職市場を活性化させるとハードルは下がります。
これから、現役世代が坂道を転げ落ちるように減っていきます。世代や性別による機会の不平等を放置していては、すべての人が持てる力を十全に発揮できる社会は訪れません。中高年男性の経験と能力を生かせないのも、たいへんな損失です。昭和の高度成長を支えた働き方制度は、限界を迎えつつあります。この妖精さん問題が、将来の日本をどうするかを考える出発点になることが期待されます。
(2020年1月19日、1月26日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)