民法772条は、子の父が誰なのか争いが起きるのを防ぐため、妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子として推定しています。婚姻成立から200日経過後、もしくは離婚から300日以内に生まれた子は婚姻中に妊娠したと推定すると規定しています。嫡出推定が重ならないようにするため、民法733条1項は、女性は離婚から6ヵ月経過後でなければ再婚できないと定め、再婚禁止期間を設けています。さらに、2項で、離婚前から妊娠していた場合、出産の日から1項を適用しないと規定しています。これは、出産後に女性が再び妊娠しても、前夫の子と推定されることはないためです。民法には母親の規定はありませんが、子の父が誰なのかわからない状況を防ぐため、父親の規定を定めています。しかしこの民法は明治31年につくられたものであり、当時と社会状況のみならず、医学的な診断能力もまったく異なっており、6ヶ月の再婚禁止期間が最高裁にて違憲と判断されました。
法務省は、今回の民法改正で、最高裁の違憲判断に沿って再婚禁止期間を100日に短縮するだけではなく、再婚禁止規定が適用されない対象の見直しに踏み込みました。再婚禁止規定が撤廃されたわけではなく、離婚時に妊娠している女性は、今後も100日間再婚が禁止されます。最高裁は嫡出推定規定を前提とした再婚禁止規定に一定の合理性を認めています。しかし、夫のドメスティックバイオレンスが理由で結婚生活の破綻と離婚時期がずれ、その間に夫とは別の男性の子を妊娠するようなケースもあります。離婚後すぐに再婚できず、女性や子どもが一時的に不安定な立場に置かれることになりかねない状況もあります。
男女平等の観点から、海外では再婚禁止期間は廃止される流れにあります。国連の女性差別撤廃委員会も再婚禁止期間の廃止を求めています。そのため、改正案では離婚時に妊娠していなかった、離婚後に出産した場合は、100日以内でも再婚できるとしています。その際には医師の妊娠していないという証明書が必要になります。子の父が誰なのか争いが起きないことが明らかな場合は、再婚禁止規定の適用はないとしています。民法ができた明治時代と異なり、離婚や再婚が増えてきた状況を考えると、嫡出推定規定のあり方も適宜改正する必要も出てきます。
(吉村 やすのり)
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