子どもから親への暴力事件が増えています。警察庁の調査によれば、子どもが加害者となる事件は年間約4,700件に達し、過去30年間で約6倍に急増しています。
1980年代までは、家庭内暴力は子どもから親への暴力を指していました。当時、親に暴力をふるう子どもは精神科病院に入院させられることが多く、DVや児童虐待という言葉も広まっていませんでした。その後1990年代に入り、配偶者へのDVや児童虐待のほうが注目されるようになりました。諸外国で虐待対策が叫ばれるようになり、日本でも2000年に児童虐待防止法が成立しました。DVという言葉が日本に入ってきたのもこの頃です。
近年、警察庁の報告では親に暴力をふるう子どもが増えています。ゲーム依存の影響も大きく、親がゲーム機やスマホを無理やり取り上げるといった行為に及ぶと、親への激しい暴力に訴えるしかなくなります。また中学受験など、親から一流大学に入れと教育虐待を受けて育った子ども達が、最終的には親への暴力という形で復讐し、家族に君臨するパターンも多くなっています。しかし、子どもから親への暴力を防止する法律は現在も存在しません。
家庭がどんどん密室化する中、子どもへの虐待だけでなく、親への暴力も見えにくくなっています。子どもに殴られたというのは、子どもを上手く育てられなかったというスティグマと背中合わせですから、なかなか表に出すことはできません。何でも子どもの言いなりになったり、やってはいけないことをはっきり止めなさいと言えなかったりする親が増え、親の奴隷化が起こります。 家族の権力構造が逆転しています。こうした歪んだ関係をいったん断ち切るには、やはり親が逃げるしかありません。逃げた親が相談できる窓口の設置や、介入や支援が受けられる民間のカウンセリング機関などが必要です。
(2024年10月29日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)