1970年代には、JR、私鉄、地下鉄が、ベビーカーは危険で他の客の迷惑になるとして、乗り入れ禁止のポスターを各駅に貼り、当事者らが抗議するベビーカー論争が起きました。電車やバスでもベビーカーを折りたたまずに乗れるようになったのは、ここ10年のことです。さらに当事者の声に後押しされ、子連れスペースも広がってきています。
日本の大都市圏の公共交通は、客をたくさん乗せて運ぶことで利益を上げてきました。ベビーカーのスペースなどを作れば売れる座席を減らすことになるため、結果的に子連れ客や障害者などを排除してきました。公共交通は有償の仕事に向かうための公共空間という意味合いが強く、子連れが邪魔とされてきました。
1980年代は全世帯の半数に子どもがいましたが、今や約2割にまで減少しています。子育ての現実が共有されにくくなっています。専用スペースは、子連れの客が利用しやすくなる利点もある一方で、子育てや介護などのケア労働を低く評価してきた社会の価値観が根本的に変わらない限り、専用車両というケアの空間に子連れを押し込めることになってしまいます。
(2022年5月21日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)