希少疾患の8割が何らかの遺伝子が関わるとされています。患者の少ない希少疾患は、診断が難しい場合があるほか、薬が開発されにくく、難治であることも少なくありません。近年、ゲノムの解析が進む中、遺伝子を調べて診断し、治療する取り組みも始まっています。
脊髄性筋萎縮症(SMA)は、特定の遺伝子の変異が原因で、神経細胞に必要なタンパク質が十分に作られず、運動神経の働きが弱まり、筋肉が萎縮する病気です。頻度は出生2万人に1人前後で、乳幼児期に発症すると早期に多くは死に至ります。このSMAの患者の治療にあたっては、変異のない遺伝子を患者の体内に届け、不足しているタンパク質を補う遺伝子治療薬であるゾルゲンスマが、国内でも使えるようになっています。発症前の段階で、この薬を1回注射すれば、発症の抑制が期待できます。
慶應義塾大学を中心にした研究班は、全国の新生児集中治療室に入院し、重い症状がありながら、病名を特定できない新生児についてゲノムを解析しています。迅速に病名を特定し、適切な治療に結び付ける取り組みをしています。約400人の遺伝子を調べ、約半数が生まれつきの遺伝性疾患であることが判明し、約100人は検査や治療の方針が変更されています。
こうした取り組みは、情報処理の高速化とデータの蓄積で、遺伝子の検査結果が早く分かるようになって可能になりました。今や治せない希少疾患が、治療可能な病気に変わってきています。世界では、すごいスピードで希少疾患のゲノム医療が進んでいます。
(2023年12月5日 東京新聞)
(吉村 やすのり)