今や世界的に子が提供者を捜す動きがみられるようになっています。子どもにとっては、知る権利と同様に知らされない権利も必要であると主張する人もいます。しかしながら、今や個人の遺伝情報を簡便に検索できる時代になっており、子どもが親子関係を疑問に思ったとき、自分でDNA鑑定を行うかもしれません。精子や卵子の提供を受けてできた子どもに真実を告げないですむ時代ではなくなってきているような気がします。夫婦で子どもをもちたいと真摯に話し合い、配偶子の提供による生殖補助医療を受けることを決断し、子どもを産み愛情を込めて育てているとするならば、真実告知をするべきであるとの考えは、理にかなっていると思います。
しかしながら、現実と理想はかけ離れたものです。子どもに出自を知る権利を保障するためには、クライエント夫婦による真実告知が前提となります。両親による真実告知がなければ、生まれた子どもは出自を知る権利が与えられません。これまで精子提供による人工授精(AID)においては、生まれた子どもに対しほとんど告知がなされてきませんでした。しかし、今後は子どもの出自を知る権利は保障されるべきであると考えられます。AIDに比較して卵子提供による体外受精では、クライエントが子どもに対して真実告知がしやすい状況にあると思います。AIDでは、子どもの誕生に父親はまったく関与しませんが、卵子提供において母親は遺伝的な母とは言えませんが、出産しているという点で子どもにも真実告知しやすい状況にあると考えられます。
≪読売新聞≫
(吉村 やすのり)