ワクチンの副反応
2013年6月にHPVワクチン定期接種の積極的な勧奨が中止された後、2014年1月の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会では、特に大きな問題となっている広汎な疼痛と運動障害は、機能性身体症状(心身の反応)であることが示されました。HPVワクチン接種後に、慢性疼痛を示す複合性局所疼痛症候群(CRPS)に加え、起立性調節障害とそのサブタイプである体位性頻脈症候群(POTS)を発症したという複数の症例がわが国から報告されました。しかし、立ちくらみ、めまい、頭痛、疲労感などを呈する起立性調節障害という病態は、もともと思春期での発症頻度が高いものであり、ワクチン接種との因果関係は不明であり、海外からは疫学的調査から否定的な報告や反論がなされています。
デンマークや英国を始めとする海外では、多くのHPVワクチンの安全性についてのコーホート研究がなされています。そのいずれにおいても、HPVワクチン接種と副反応との因果関係は証明されていません。さらにWHOのワクチンの安全性に関する諮問委員会は、公衆衛生学的な観点から、本ワクチン接種の積極的勧奨がさし控えられている現在の日本の状況を踏まえて異例のコメントを出しています。「若い女性たちは、予防可能であるHPV関連がんの危険にさらされたままになっている。不十分なエビデンスに基づく政策決定は安全かつ効果的なワクチン使用の欠如につながり、真の被害をもたらす可能性がある。」
メディアはこうした世界の状況をほとんど報道していません。国民に対し、HPVワクチン接種のリスク・ベネフィットの正確な情報が伝えられていません。ワクチンと一連の副反応の因果関係が証明されていない状況や、HPVワクチンに関する海外からの重要なデータの情報が伝わっていないことも問題です。当然のことながら、因果関係が不明であっても、ワクチン接種後に生じた様々な症状に適切な対応がなされることは大切です。現在のわが国にみられるHPVワクチンの副反応問題は、こうした誤解から生じていることの認識も必要です。
(吉村 やすのり)