子宮頸がんワクチンの公費による定期接種は、昨年4月より小学6年から高校1年までを対象に開始され、これまでに300万人前後が接種を受けている。しかし、注射部位の痛みのみならず、失神や痙攣など重い副反応が出現したため、厚生労働省は2カ月後に積極勧奨を一時中止した。このためワクチン接種は、現在ほとんど実施されなくなっている。このような国は世界でもわが国だけであり、世界からも大変不思議な現象であるとされている。厚労省の有識者検討会は、副反応はワクチンの成分が原因ではなく、接種時の強い痛みや不安が引き起こす心身の反応との見解を出している。
マスコミ各社は、ワクチン接種の勧奨は慎重にすべきであるとの報道が多い。ワクチンの効用ではなく、副反応だけを前面に押し出す報道も見られる。子宮頸がんワクチンは他の感染症に対するワクチン接種とは異なり、子宮頸がんの発症を完全に防ぐことはできない。がんの危険から自らを守る個人防衛が目的である点で性格が異なるとの指摘もある。しかしながら、報道各社はこうした報道が国民や社会に与える影響を慎重に考慮すべきである。ワクチンによる副反応の調査研究は継続すべきであるが、一日も早い勧奨が急がれる。
(2014年6月8日 読売新聞)
(吉村 やすのり)