子宮頸がんワクチン提訴に憶う

 子宮頸がんワクチンを接種した後に、全身の痛みなどの健康被害を訴える1020代の女性12人が、国や製造販売している製薬会社2社に対し、損害賠償を求める集団提訴を6月にも起こす方針とのことです。問題となったワクチンは、グラクソ・スミスクラインとMSDの子宮頸がんワクチンです。それぞれ2009年と2011年に日本国内で承認されました。
 海外での使用状況を考慮し、その安全性・有効性の検証した後、わが国においても201011月からワクチン接種の公費助成が開始されました。20134月からは、小学6年生~高校1年の女性を対象に原則無料で定期接種化することになりました。しかし全身の痛みや倦怠感などの健康被害を訴える声が相次ぎ、国は3ヶ月後の6月に積極的な接種の勧奨を中止しました。その後、現在まで再開に至っていません。日本産科婦人科学会は、子宮頸がん発症予防の観点から、ワクチン接種の勧奨再開を求める声明を出しています。世界保健機関(WHO)も、昨年12月に日本の積極的な勧奨中止を名指しで異例の批判声明を出しています。しかし様々な副作用をワクチンと関連する新たな病態としてとらえるべきだと主張する学者もいます。
 ワクチンを問題視する学者は、ワクチンの免疫原性(免疫を引き起こす力)を高めるための添加物であるアジュバントにより、様々な神経症状が出るとしています。しかし、他のワクチンに同じアジュバントが使用されていますが、子宮頸がんワクチンと似たような症状は起こっていません。しかし、厚生労働省は、因果関係は否定できないとの判断から、健康被害の救済を進めていますが、ワクチンの副作用の解明にはさらに時間を要するとしています。世界各国で承認されており、有効性や安全性については圧倒的な科学的エビデンスがあることから、製薬会社は主張に根拠はないと考えています。こうした訴訟が起こると、マスコミは挙って国や製薬会社の責任を追求する態度をとります。これまでの世界の報告を見る限り、提訴に科学的な根拠があるとは思われませんが、こうした状況が続く限り、若い女性が安心して子宮頸がん接種を受けることは難しくなります。不利益を被るのは若い人々です。現在、副作用で苦しんでいる女性に対しては、産科医療のような無過失補償制度を立ち上げるようなことにより、救済することを考えなければなりません。一方で、若い女性が安心して子宮頸がんワクチンを受けられるような環境作りが何よりも大切です。今、ワクチン接種を再開しないと、日本の女性しか子宮頸がんに罹患しないといった状況を招きかねないことになります。将来、ワクチン接種をしなかったために子宮頸がんを発症した人に対して、誰が責任を取るのでしょうか。

(吉村 やすのり)

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