子宮頸がんワクチンを接種して全身の痛みなどの健康被害を訴える女性4人と弁護士団が、被害を予見できたのに適切な措置を取らなかったとして、国や製薬会社2社に対し損害賠償を求める集団訴訟を起こす方針を明らかにしました。6月頃になる予定です。グラクソ・スミスクライン社とMSD社の製薬2社が、国内販売を申請した際に海外で報告されていた重い副作用の事例に対する国の認識の不十分さや、承認時のワクチンの安全性に関する判断の問題、接種を促進した責任などを問うとしています。
子宮頸がんワクチンは、2007年9月に製薬会社側の国内申請を受けつけました。国は2013年に定期接種にしましたが、深刻な被害が相次いで報告され、2カ月後に接種の積極的勧奨を中止した経緯があります。厚生労働省によると、昨年6月末までに報告された副作用の疑い例は約2700件にのぼります。厚生労働省の専門家部会は、2014年に疑い例について心身の反応とする意見をまとめています。現在、引き続き厚生労働省は症状とワクチンの因果関係を調べています。
厚生労働省が勧奨を控えて以降、再開の是非を決められないのはワクチンの評価が分かれているためです。勧奨の中止が続けば、将来先進国の中で子宮頸がんの患者が減っていない国が日本だけになりかねないという指摘があります。日本産科婦人科学会も勧奨の再開を求めています。勧奨の中止が続く日本について世界保健機関は、昨年12月に根拠のない証拠に基づいた政策決定などと異例の声明で批判しています。接種が認められない国は、先進国の中では日本だけです。一方、副作用をワクチンと関連する新たな病態としてとらえるべきだと主張する学者もいます。我々が考えなければならないことは、子宮頸がんワクチンを受けられないことにより不利益を被る多くの女性がいることです。
(2016年3月31日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)
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