子育てに対するネガティブ感

 2024年に日本で生まれた日本人の子どもの数が統計のある1899年以降初めて70万人を割りました。1970年代から2020年までの合計特殊出生率の低下分の8割程度は、晩婚や未婚といった未婚化で説明がつきます。妻が20代後半で結婚した夫婦はこれまでと変わらず2人ほどの子を持っており、夫婦が子どもを持つペースはそれほど変わっていません。

 しかし、最近は結婚からの離脱組が増えています。結婚しても子どもを持てそうにない人、そもそも子どもを持ちたくないから結婚しない人もいます。仮に結婚を後押しできても、以前のように子どもを持つとは限らなくなっています。結婚を促進させても、必ずしも少子化対策につながるとは思えない状況になっています。

 1980年代の未婚化は、結婚の先送り型(仕事あり&恋人あり&希望あり)の増加によるものでした。1990年代になると、叶わず型(仕事なし&/or恋人なし&希望あり)が増えてきました。2010年代以降は離脱型(仕事なし&/or恋人なし&希望なし)が急増しました。結婚できる条件が整っても意欲を持たない人が増えています。最近では経済的余裕のあるカップルでも子どもを持たない選択をする場合が増えています。

 未婚者に独身生活の利点を尋ねると、行動や生き方が自由といいう回答が圧倒的に多くなっています。自分の自由な時間が無くなる、子育てに出費がかさむと答える若い男女が増えています。子どもを大切に思い、手をかけるという発想はとても尊いのですが、親が際限なく労力を投入する子育てに対するネガティブな印象が、結婚意欲の低下につながっています。

 こうした傾向は日本に限らず欧米でもみられ、北欧諸国においてもV字回復した出生率にも陰りがみられています。とくに東アジアでは教育熱の高さに表れています。変化が加速する社会では、より多くの選択肢を保持しなければならないという焦燥感が生まれます。過度な育児は、子どもにはできるだけ多くの選択肢を与えたいという不安感の表れとも言えます。「子育ては自分育てである」、その素晴らしさを教えるearly exposureが大切となります。

(2025年6月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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