子育て・家族政策の公的支出
コロナ禍で少子化が加速しています。2020年の合計特殊出生率は1.34、出生数は約84万人と5年連続の低下です。フランスも日本同様、20世紀後半から合計特殊出生率の連続低下が持続し、1993年には1.66の最低値を記録しました。しかし、その後さまざまな国策を講じたことにより、2010年には2.02まで数値を回復させています。2020年の出産年齢女性数と出生数を日仏で比較すると、20~44歳女性の人口は日本が約1,732万人、フランスが約1,007万人と、700万人以上の開きがある。しかし、同年の出生数は日本・約84万人、フランス・約74万人と、10万人しか違いません。
OECDがまとめた国際比較によれば、フランスはGDP比において日本の2倍近く、児童手当や育休制度、保育サービスなど育児支援政策に公費を支出しています。バラエティー豊かな現金給付・現物給付を行うとともに、出産関連医療費の無償化や減税・控除など、子持ち世帯の経済的負担を減らす策を実施しています。万策を尽くし、国民が不安少なく産める、育てられると思える環境を作り上げています。
子どもを持つことの将来不安が解消されれば、少子化問題は自ずと改善に向かいます。実際、現在のフランスには少子化対策を冠する政策パッケージは存在しません。子育て支援の各種制度は家族政策の名の下に編まれ、関連の法律には、少子化対策の表現が用いられることもありません。象徴的な支援が、子どもの数が増えるにつれて親の所得税負担が軽くなります。フランスの所得税は世帯単位の課税で、子どもが1人増えれば頭数0.5人分、税率が下がります。子どもを持つことで増える生活費と減る税負担が相殺されます。さらに、子どもを3人以上養育した親は、年金受給額が10%増える年金加算制度も存在します。
保育・教育に関しても、親の負担を軽減する工夫が張り巡らされています。保育費用は全国統一基準の応能負担で、かつ自己負担した年間保育料の半額は所得税の税額控除(上限約15万円まで)が受けられます。控除対象となる保育料には、公立・私立の保育園料はもちろん、親が個人雇用する保育アシスタントと呼ばれる認可制ベビーシッターの費用も含まれます。これらの控除は所得の多寡にかかわらず、親となる全ての国民が享受できるのが特徴です。
学校は公立校が主流で、学費は義務教育開始年齢の満3歳から大学まで公立校なら原則無償です。いわゆる放課後の時間に関しても、3歳から小学校を卒業する11歳までは、地方自治体運営による学童保育が、親の勤労状況にかかわらず希望者全員を受け入れるよう整備されています。
(Wedge December 2021)
(吉村 やすのり)