学校貧血検査の判定基準の変更

近年、女子生徒を中心にダイエットが強く意識されるなど、潜在的に鉄欠乏を抱えた生徒が生じやすい環境であると推察され、貧血検査は重要性を増していると思われます。最近までは、ヘモグロビンの測定には1986年改訂した基準値を使用していました。しかし、1990年代から最近にかけて、男女ともに正常率が低下する傾向を認めています。2016年度のデータでは、小学生男女および中学生男子の正常率が96%前後と低いほか、男子中学生と男子高校生の間で正常率に3%以上の差が生じていました。

一般的に男子ならびに小学生女子では貧血が少ないことや、高校進学後に急激に貧血が改善する現象は考えにくい点などを考慮すると、判定基準自体が時代に合わなくなっていることが考えられました。例えば、男子中学生では平均体重が近年減少傾向にあることが知られているように、平均ヘモグロビン値にも時代による変化があっても不思議ではありません。
そうした背景をふまえ、2017年に効率的な貧血検査をめざして基準の改訂を行いました。まず世界保健機関(WHO)をはじめとする国際的な潮流を考慮し、学年ではなく年齢を判定に用いることにしました。ヘモグロビンの数値には、国や地域による差がありますので、東京都における2012~2016年度の男子生徒の年齢別実測値を基に基準値を決定しました。その際、12歳までは男女に分布の大きな差が見られなかったため、女子にも同じ基準値を適用することにしました。また受検者にとってわかりやすい判定をめざし、要注意という区分を廃止し、ヘモグロビン低値の生徒全員に病院受診を勧奨することにしました。

今後は、貧血疑いのある思春期女子が10%近くも存在する現状をどうしていくか考えることも必要かと思います。鉄欠乏性貧血は自覚症状に乏しいため、学校で検査しないとそのままになってしまったり、検査で異常が指摘されても医療機関を受診しないケースが少なくありません。できるだけ多くの学校に検査を普及させるとともに、健康教育として、鉄欠乏性貧血になった時の身体への悪影響などを学校で教えることが必要です。思春期には月経の状態をチェックし、貧血のある場合は特に早期よりピルの服用が推奨されます。

(よぼう医学 2021 winter)
(吉村 やすのり)

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