研究者にとって論文を書くことはもっとも大切な仕事である。究成果はこれまで実験データに基づき忠実に研究成果を発表することによって成り立っていた。 技術やアイデアを守るための特許申請とは異なり、論文の成果が他の研究者によって引用され、新しい発見につながり、更に研究が進歩していくといった形で科学は発展してきた。今回のSTAP細胞の研究も新しい万能細胞が非常に簡便な方法で作製することができるという点で、再生医療のブレークスルーになりうる研究成果であると期待された。しかしながら、研究成果に疑惑がもたれ、調査委員会で論文にねつ造や不正が明らかになった。
共著者らは共同研究の自らの役割分担のデータを提供すること以外に、独自性があるかどうか、論理の展開に矛盾がないかなどを判断する。しかし、その時提供されたデータに不正があることを前提にチェックするようなことはしない。性善説のもと審査を行うのが通常である。現在のように成果主義がまん延するような研究環境では、今後も今回のような不適切な論文が増えることが予想される。
(2014年4月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)