専門医制度の導入に憶う

 諸外国においては、臨床医として働くには標準化された専門医研修が必須となっています。しかし日本の医師は、医師国家試験に合格した後に2年間の初期臨床研修が必修になっているだけです。各臨床分野の専門医になる研修は、制度化されておらず、各学会ごとの独自の専門医制度が実施されてきました。しかし、諸外国と同様に、国民に対して質の高い医療を提供するためには、一定の標準プログラムを研修する専門医制度を導入する必要性があるとの指摘を受けていました。
 本来なら日本専門医機構が、2017年度から19の臨床基本領域について標準化された専門医研修を制度化するはずでした。しかし、諸団体の反対で導入が延期されています。専門研修プログラムが大病院中心のため、専攻医が都市部に偏在して地域医療の崩壊を招く、地方においては大学が基幹病院となり医師の人事をコントロールすることになり、地域中核病院に医師が派遣されなくなる可能性があるなどの反対意見が多数みられました。
 医療は極めて専門性の高い分野です。患者側が医療サービスの内容や質を的確に評価したり、理解したりすることは困難なことがあります。医師の質の担保や広く国民が標準化された医療を受けることできるためにも、治療技術の研修や修得のための何らかの専門医制度の導入は必須と思われます。最近では十分な専門医研修も受けず、医師免許を有しているだけでクリニックを開業し、商業主義的で、かつエビデンスに基づかない医療を国民に提供している医師も少なくありません。
 全国の基幹病院で標準化された専門医療を受けることができ、どの地域でも標準化されたプライマリ・ケアを利用できるようにしなければなりません。専門医制度導入によって不利益を被る地方自治体や中小病院を中心に、反対意見やキャンペーンは目立ちますが、それらの意見には公共性や正当性が乏しいように思われます。特に臨床基本領域における専門医制度の充実は、標準的医療を実践する上で必要不可欠です。大切なことは、多くの国民にとって安全・安心な医療が受けられるような、費用対効果にも優れた専門医制度を目指さなければなりません。

(吉村 やすのり)

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