小学校の教員不足が深刻です。学校教員の労働力市場は中途離職者が増加傾向にある一方で、ほかからの転職者は増えない状況にあります。中学・高校の教員免許状は、文部科学省から教職課程の認定を得た大学ならどこでも所定の単位を修得すれば取得できます。国公私立の四年制大学の約4分の3が、中・高の教職課程認定を受けています。
対して小学校と幼稚園の教員養成の門戸は狭く、教育系の学部組織が必置であることに加え、1980年代から採られた抑制策で、教育系学部の新増設が禁止され、さらに国立の教員養成課程の定員が削られていました。しかし21世紀初頭、団塊世代の大量退職に伴う教員不足が懸念される状況下で、抑制策が2005年度に撤廃されました。これを機に幼・小の教員養成に新規参入する私学が4倍近くに激増し、大卒免許状の発行数は、約1.5倍になりました。
小学校教員の増加に伴い、2010年前後から特に小学校の教員免許取得者の学力不足が顕在化してきています。実習生が小学校で扱う教育漢字を板書できない、比の計算を説明できないといった現場の嘆きが増えてきています。背景には、伝統ある大学の新規参入が比較的少なく、入学者の確保に難儀していた私学がサバイバルを懸けて、子ども、児童、発達などを冠した学部を新増設したことも関係しています。
わが国では、教員養成を目的とする教育学部以外でも、所定の単位を取得すれば、教員免許状を取得できる開放制を取っています。開放制原則下の様々な大学で教員免許状を取得する学生の大半にとって教職は、卒業後の進路の一つのオプションでしかありません。昨今の採用倍率の低下は免許状発行数の増加ほどに採用試験の受験者が増えていないこと、つまり労働力市場の中で教職が選ばれていないことに起因します。労働力市場の中の魅力あるオプションとして、今後の教職を再構築して浮動層を取り込むことにあります。
教職を選ばれる職にするためには、新人教員の思い切った負担軽減が必要になります。日本の教員の働き過ぎが叫ばれて久しく、近年の教育課題の多様化に加え、新型コロナウイルス禍に伴うリモート授業などイレギュラーな対応が拍車をかけています。若い教員が萎縮することなく、のびのびと教育に取り組める環境をつくることが大切です。教育政策は、少子化とともに国の行く末を決める根幹をなしています。
(2021年11月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)