厚生労働省が発表した2024年の合計特殊出生率は、1.15と9年連続で低下し、過去最低を更新しています。その主要因は未婚化にあると言われています。日本の婚姻件数は2024年は微増となりましたが、なお年間50万件を下回る水準が続いています。生涯独身で過ごす人が男女とも増加し、生涯子どもを持たない人は先進国で最も多い水準にあります。
国立社会保障・人口問題研究所の2021年の出生動向基本調査によれば、結婚の利点と思われる自分の子どもや家族を持てるが減少に転じています。結婚や子どもを持つことを巡る価値観は揺れ動いています。現代の若者たちは、コミュニケーションのあり方が根本的に変わってきています。スマホやタブレットが普及し、わざわざ人と雑談しなくても良い時代になりました。人間関係づくりは能動的にあえてするものになってきています。
未婚化を阻止しようとすることは、個人の価値観に立ち入ることになります。結婚も子どもを持つことも個人の自由で、尊重されるべきことです。未婚化の背景に価値観やコミュニケーションの変化があるとすれば、政策として介入したり、すぐに解決したりするのは難しくなります。 未婚化の進行の末、孤独や孤立に陥る人が増えるとすれば、それはやはり社会の課題となります。人とつながる価値は、社会を存続する上でも、個人の幸福を考える上でも大切です。スウェーデンやフランスは多様なライフスタイルを重視する国ですが、誰かと支え合って暮らすことや、子どものケアに関わることに高い価値を置いています。少子化対策としての経済面の支援や働き方の改善は絶えず続けていく必要があります。さらに若者の意識や価値感の変化にどのように対応して行くかが問われています。

(2025年6月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)