少子高齢化社会において生殖医療に求められるもの ― 後編

生殖医療は次世代に向けた未来志向型の医療であることから、国の全世代型社会保障会議も少子化対策の一環として生殖医療に注目しています。今後は、医療技術の進歩のみならず治療と仕事の両立ができる職場環境の整備や支援など、社会的機運の醸成を図ることも大切となってきます。少子高齢化社会にあって、生殖医療も変革を迫られています。近年の生殖医療においても、妊孕性温存や妊娠帰結に寄与する可能性を持つ新知見や新技術が陸続と開発されていることからも、がん・生殖医療のような医学的卵子や卵巣組織の凍結のみならず、社会的な卵子の凍結や第三者を介する生殖補助医療、さらには新たな先進医療をどのような形態で取り入れていくかも課題となってきます。
2022年4月から、高度先進医療であった生殖補助医療は、保険適用されることになっています。自由診療として発展してきたわが国の生殖医療は、海外やわが国で開発された医薬品や医療機器を速やかに臨床応用できたことから、目覚ましい進歩を遂げてきました。しかしながら、保険適用による治療の標準化により、これまで実施できた数多くの先進医療技術が、クライエントに提供できない事態も起こりえます。そのため、クライエントが希望する最適な医療を受けられず、かえって不利益を被る可能性も考えていかなければなりません。混合診療を認めなければ、現在の医療水準を維持することは困難となりますが、混合診療の導入は、がんの先進医療などわが国の医療制度の根幹に関わる問題に発展する可能性があります。今回の菅総理による保険適用の問題提起は、今後の生殖医療のターニングポイントと捉える必要があります。
今後治療周期数の増加も望めない状況下で、保険適用のもとで妊娠を希望するカップルに対して、どのような個別化医療を提供できるかを模索していかなければなりません。そのためには、先進医療としての有用性を示すための科学的なエビデンスの創出が何よりも大切となってきます。

(吉村 やすのり)

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