日本は、世界最速で人口減少と高齢化が進んでいます。少子高齢化という構造的課題に真正面から取り組むべきだとして、安倍首相の経済政策アベノミクスの第2段階が始まっています。名目国内総生産(GPD)600兆円、希望出生率1.8の実現、介護離職ゼロが新3本の矢です。新3本の矢のうち、最も達成が難しいとされる希望出生率は、子どもをほしいと思っている若年層の希望がすべてかなうと達成する水準です。1人の女性が生涯に生むこどもの数を示す合計特殊出生率は、2014年時点で1.42であり、1.8は1984年を最後に達成しておらず、非常にハ-ドルの高い目標といえます。
仮に1.8という出生率が実現したとしても、中長期的に人口1億人を保つのはきわめて難しい状況にあります。世界銀行が10月に発表したグロ-バル・モニタリング・リポ-トは、日本の人口問題を取り上げています。日本の出生率が今世紀半ばに希望出生率である1.8に達したとしても、今から50年後の2065年には人口が1億人を下回ってしまいます。出生率が2.1まで上昇すれば、50年後も人口1億人を維持できます。しかし、この値は先進7カ国でも最も高いフランスを超える高水準であり、達成できるとは考えられません。現行の子ども・子育てに対する政策では、出生率1.8も達成することはできません。都会における待機児童ゼロはもちろんのこと、病児保育、学童保育など、量のみならず、保育の質を上げるような政策が必要です。大都会における出生率が上昇しないようでは、希望出生率1.8は望めそうにもありません。
(2015年11月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)