帝王切開の児の健康・発達に与える影響

 帝王切開後の児の長期的な健康や発達への影響については、国内外で関心が高まっています。帝王切開では、経腟分娩と異なり産道通過時の母体細菌叢への曝露が無いため、児の免疫系の発達や腸内細菌叢の形成、ひいてはアレルギー疾患や肥満、神経発達などに影響を与える可能性が指摘されています。

 岡山大学の研究グループは、帝王切開後の児の身体的健康から神経発達まで、経腟分娩児と比較検討しています。評価した主なアウトカムには、1.5歳から5.5歳までの入院経験、5.5歳および9歳時点での肥満、2.5歳、5.5歳、8歳時点での各種発達マイルストーン(運動、言語、認知、社会情動性)の未達成や、自己調節・注意・適応・行動の問題などが含まれます。

 入院リスクは帝王切開群でわずかに高い傾向が見られましたが、統計的な有意差は見られませんでした。呼吸器感染症や消化器疾患による入院リスクについても同様でした。また5.5歳時点および9歳時点での過体重・肥満のリスクにも、帝王切開との有意な関連は見られませんでした。さらに、2.5歳時点での運動・言語発達指標の未達成、5.5歳時点での認知・社会情動発達指標の未達成や自己調節の問題、8歳時点での注意・行動の問題についても、帝王切開との間に有意な関連は認められませんでした。

 多胎児では、帝王切開と一部の発達指標の遅れとの関連を示唆する傾向が見られた一方、早産児では、帝王切開と消化器疾患による入院や運動発達指標の遅れなどのリスク低下との関連を示唆する傾向が見られましたが、統計的な有意な差ではありませんでした。

 現在の日本の高度な周産期医療体制の下では、医学的な適応があって行われる帝王切開が、少なくとも学童期中期(9歳頃)までの子どもの長期的な健康や発達に対して、一般に懸念されているような大きな悪影響を与える要因になっている可能性は低いと考えられます。帝王切開の必要性を判断する際には、やはり母児の周産期の安全性確保という医学的適応を最優先に考えるべきであり、長期的な影響への懸念から必要な帝王切開をためらう必要はないと思われます。

(日産婦医会 令和7年6月1日号)
(吉村 やすのり)

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