経済への影響
世界でも最も高齢化した社会であるわが国では、年金制度の持続可能性への懸念が強まっています。多かれ少なかれ国の全ての政策や制度は、個人や企業の意思決定をゆがめるとしています。年金制度もその例外ではなく、人々の貯蓄行動や退職行動に影響を与えると主張しています。ハーバード大学のマーティン・フェルドシュタイン教授は、年金制度のもつ様々な問題点を指摘しています。
人々は退職後に年金を受給できるとわかっていれば、自ら貯蓄をして退職後の生活に備える必要性を感じなくなり、貯蓄を減らすことが考えられます。これは、年金の資産代替効果と呼ばれています。年金制度の存在による貯蓄の減少が、国の資本形成や経済成長を阻害することが懸念されています。年金支払いの財源をその時点での現役世代の保険料負担に求める賦課方式から積み立て方式への移行や、年金制度の民営化、運用結果により受取額が変わる確定拠出年金の導入など、資産代替効果を解消・軽減する政策を提案しています。
また、退職後に年金を受給できるとわかっていれば、退職しても問題なく生計が立てられると思い、退職時期を早めることも考えられます。これは退職促進効果と呼ばれます。通常ある年齢に達すると年金を受給する権利が生じますが、年金を受給するために完全に退職する必要がある場合、人々は年金を受給する権利を行使するためだけに退職を早め、退職時期を受給開始年齢に合わせようとすることが想定されます。
(2019年9月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)