全世代型社会保障改革の目玉である幼児教育と保育の無償化が10月から始まりました。幼児教育・保育の無償化は原則3~5歳は全世帯、0~2歳は住民税非課税世帯が対象で、年間で約8千億円を投じることになります。しかし、家計に保育料の負担がかからなくなれば、保育所や幼稚園などの施設側は値上げしやすくなります。厚生労働省などは便乗値上げに注意を促す通知を出し、実態把握を進めています。保護者に負担がかからない無償化は、ばらまきになるリスクをはらんでいます。
政府は待機児童を2020年度末までにゼロにする目標を掲げています。保育所の新設など受け皿整備を進め、2019年4月の待機児童数は1.6万人と過去最少になりましたが、保育士不足は深刻です。保育現場では、質に関連した問題が起きています。保育士の資格を持ちながらも、職場環境に不安を感じて保育現場から離れてしまう人は後を絶ちません。
保育所の整備などの量の拡充のみならず、保育士の確保などの質の向上は待ったなしの状況にあります。政府が10%以上の消費税引き上げの議論を封じたことで、追加の国民負担によって保育に充当できる新たな財源が出てくる可能性は低くなっています。こうした制約下で子育て支援の拡充といった全世代型社会保障を実現していくには、高齢者に偏った給付を見直し、若い世代に回す財源を確保していくことが必要になります。
2019年に日本人の出生数は90万人を割り、過去最少になると推計されています。社会保障の支え手を増やすには、子どもを安心して産み育てられる環境づくりが急務です。
(吉村 やすのり)