役員賠償責任保険は、役員の業務遂行に対して、過失責任を追及された場合に保険金が支払われる損害保険です。企業や役員が保険金の受取人になり、企業が保険料を負担します。無保険で賠償額が巨額になると、役員の自己負担額が増えかねません。社外取締役を招く場合に、賠償保険加入の有無が重視されることも多く、中小規模の企業も対応を迫られています。
東京海上日動火災保険によれば、2021年度に有価証券報告書を提出した上場企業3,849社のうち、大企業の多い最上位のプライム市場は加入率が84.3%でした。これに対してグロース市場は75.1%、スタンダード市場は73.5%でした。売上高が1,000億円から1兆円未満の企業の加入率は85.9%だったのに対し、売上高100億円未満の企業は69%と大きな開きが見られています。
賠償保険は、外部から社外取締役を登用する際の条件になり始めています。複数の上場企業で役員を務める社外取締役は、訴訟リスクを考えれば、今の時代は役員賠償保険の加入は必須と言えます。実際に取締役会に占める社外取締役の割合が高い企業ほど、加入率は高くなっています。
日本は海外に比べて役員賠償保険の加入率が低くなっています。特に訴訟大国の米国では、未上場企業でも加入しない企業は極めて稀です。国内外の運用会社の間では、社外取締役の比率が低いと経営トップの選任議案に反対する場合があります。無保険の状態では、企業統治の多様性の確保で後れを取るリスクも高まっています。
(2022年12月8日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)