75歳以上の後期高齢者医療にかかる費用は、2017年度で約14.8兆円にのぼっています。保険給付にあてる財源は、現役世代の保険料と税金などで9割、高齢者の支払う保険料で残りの1割を賄っています。2022年から75歳以上の高齢者は急増します。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2022年の75歳以上の人口は前年から4.1%も増えることになります。団塊の世代が75歳になり始めるからです。
団塊の世代を含む70~74歳の窓口負担は原則2割です。過去には特例措置として1割負担でしたが、2014年度から5年間かけて段階的に措置を無くしてきました。しかし、今のままでは75歳になれば再び1割負担に戻ってしまいます。この後期高齢者の医療費負担を段階的に2割に引き上げることを、財政制度等委員会が提言しています。
しかし、患者の負担増には、日本医師会が強く反対しています。窓口負担の増加は患者の受診抑制を引き起こす懸念があるからです。医師会は現役世代の保険料引き上げや消費税以外の税財源の活用を提案しています。既存の窓口負担と別に、外来受診時に一定額を追加で払う案もあります。現役世代から高齢者まで幅広く負担するものですが、現役世代では3割を超す負担になる人が出てきます。
公的医療には窓口負担とは別に、月額ベースで患者負担の上限を定めた高額療養費制度と呼ぶ仕組みがあります。手術や入院などで高額の治療費がかかると3割でも患者負担が重くなるからです。患者負担の見直しを棚上げした状態で、今後の高齢化で医療保険財政が圧迫されれば、保険本来の役割であるビッグリスクに備える高額療養費制度も維持できなくなる可能性も出てきます。後期高齢者においても、病院で外来受診した際の窓口負担の見直しをせざる得ない時期に来ています。
(2019年10月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)