心の病の理解と対応―Ⅲ

受診の遅れ
近年のわが国では、特に大都市周辺において精神科や心療内科を標榜する診療所は増加しているにもかかわらず、不安・不眠・抑うつ等の一般的な精神症状のために、何らかの精神保健サービスの利用した人の割合は、諸外国に比べて非常に低率です。受診が遅れる原因としては、スティグマの影響が大きいとされています。スティグマとは、日本語の差別や偏見などを示し、個人の持つ特徴や疾病などに対する否定的な意味づけのことです。精神疾患になる人は、心が弱い人、特殊な人と考えてしまうこともスティグマの一種です。
自分だけは大丈夫という思い込みから、自身の精神的な不調に気づかなかったり、あるいは気づいていても、相談したり受診すると、周囲から弱い人間と思われるのではないか、差別されるのではないかと考えて、受診しないということもよくあります。そうした思いは他者への思いにも通じ、精神疾患から回復した人々、あるいは精神障害がありながらも社会生活を営む人々への偏見に通じる恐れがあります。これらの解消、早期の受診、より軽症なうちからの治療や支援が、回復を促進する上で大切です。
精神疾患は早期に治療を開始すれば十分に回復する可能性もあります。身体疾患と同じく早期発見・早期治療が大事であり、一人ひとりが基本的な正しい知識を持つこと、珍しい疾患ではなく誰でも罹る可能性があるという認識を持つこと、罹った可能性に気づき正しい対応を取れることが、その後の回復にとって非常に重要なことです。

(よぼう医学 2022 AUTUMN)
(吉村 やすのり)

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