最高裁は、性同一性障害の人が戸籍上の性別を変えるには、生殖能力をなくす手術が必要となる法律の規定が合憲かどうかが争われた家事審判の決定で、現時点では合憲とする初判断を示しました。2004年に施行された性同一性障害特例法は、生殖腺や生殖機能がないことなどを性別変更の要件としており、手術を受けて生殖能力をなくす必要があります。一方、規定には個人の自由を制約する面もあるとして、合憲性については補足意見で不断の検討を要すると指摘しています。
性別変更は、生まれた時の性別とは異なる性別で生きる人のうち、希望者が申し立てる制度です。手術は強制されるわけではありませんが、就職や結婚のため、やむを得ず受ける人が少なくありません。自らが認識する性別で生きることは、切実ともいうべき重要な法的利益です。しかし、多くの人が当たり前に享受する利益を得るためには、負担の大きい手術で、生殖能力を永久に失わなければなりません。ホルモン投与などで外見を変えても手術を受けなければ、戸籍を変えられず、実生活で困難に直面する人も多くなっています。
世界的には、不妊手術の強制は人権侵害として、手術なしで性別変更を認める国が増えています。今回の最高裁の決定も、性的少数者に対する社会の意識の変化を認め、あくまでも現時点では合憲としたに過ぎません。性同一性障害者の性別に関する苦痛は、性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもあります。人格と個性の尊重という観点から、適切な対応がされることが望まれます。
(吉村 やすのり)