性差に着目した研究が奨励されるようになっています。科学研究は、これまで臨床研究などを少しでも簡略化しようと、男性でだけ効果を確かめる場合が多かったのですが、近年の研究で、性差が無視できない場合があることが分かってきています。これまでは、男性ホルモン、女性ホルモンというように性ホルモンの違いで性差を説明されることが多かったのですが、細胞の性が大切であると考えられるようになってきています。
男性は多くのがんの発生率が高いことが知られており、その原因は喫煙率の高さと考えられてきましたが、原因の一部は性染色体にあるらしいとうする研究が発表されています。性染色体はXとYの2種類あり、生まれてくる子の性別は、XYだと男性、XXだと女性になります。X染色体にはがんを抑制する遺伝子が含まれており、男性はXを1本持っているのに対し、女性では休んでいる部分はあるものの、Xを2本持っていることと関係しているようです。
全ての細胞が性を持ち、肝臓でも骨格筋でも性差があります。性差は性ホルモンに誘導されると考える人が多いのですが、性染色体の影響も考慮しないといけません。近年、抗うつ薬や高血圧薬など男女で効果や副作用が違う場合がある例が見つかっています。科学誌ネイチャーは、2013年のマウスを使った再生医療の基礎実験で、幹細胞の元の細胞がオスとメスで実験結果に大きな差が出ることを紹介しています。細胞レベルの性差から全身を見ようという流れが世界的なブームとなっています。
(2020年3月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)