感染症はその時々の人類の未来、すなわち歴史を変えてきました。14世紀、欧州の人口3分の1が亡くなったともされるペスト(黒死病)が流行しました。労働力不足で農奴の地位が向上し、荘園制の解体や、ルネサンスにもつながったとされます。インドの風土病だったコレラは、19世紀以降7回世界的に流行し、英国やフランスで公衆衛生が発展する契機になりました。
パンデミックは不条理な死を引き起こします。死の原因を社会の矛盾に求め、その矛盾を問い直す動きが起きることになります。それは感染症による変化と言うよりも、すでに始まっていた変化の加速ととらえることもできます。
かつてないほどグローバル化した現代社会におけるつながりが、コロナの世界的流行を引き起こしました。人類が自然と接する以上、新たな感染症と決別することはできません。しかし社会の形を変えて感染症との向き合い方を選び取ることはできます。今回のコロナ禍は、変異株の出現や個人の苦しみといった情報を即時に共有し、知恵を出し合うこともできる好機なのかもしれません。
(2022年1月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)