子宮移植を巡っては、日本医学会の検討委員会が2021年にドナーの意思を丁寧に確認することなどを条件に少人数に限って臨床研究としての実績を容認することを受け、慶應大学の研究チームは昨年11月に学内の審査委員会に臨床研究を申請しました。
ロキタンスキー症候群の患者は4,500人に1人とされ、国内に約6万人いるとされています。慶應大学の計画では、生まれつき子宮がないロキタンスキー症候群の患者らの中から、出産を希望する20~30代女性3人を公募しています。夫がいることが条件で、子宮提供者(ドナー)は母親など親族に限るとしています。
生まれつき子宮がなかったり、がんなどの病気で子宮を摘出したりした女性が子宮移植の適応となります。出産は帝王切開で行います。まず患者の卵巣から採取した卵子と、夫の精子を体外受精させます。そのうえで、ドナーから手術で摘出した子宮を患者に移植し、子宮が定着したら受精卵を入れ、妊娠・出産を目指します。
子宮移植は、臓器触法の対象外で、心臓などの他の臓器移植とは異なり、救命や重い症状の改善を目的としたものではありません。その一方で、健康なドナーに手術のリスクを負わせることになります。子宮提供を受ける女性にもリスクはあります。移植した子宮が体内にある間は免疫抑制剤を飲み続けなければなりません。出産したら再度手術をして子宮を摘出することになります。高額な費用も課題です。研究計画では、移植手術や体外受精などにかかる費用は1件あたり約2,000万円です。研究費で負担する部分もありますが、患者も数百万円を自己負担する必要があります。
生まれつき子宮がない病気だと思春期に告知される衝撃は計り知れないものがあります。家族の苦悩も大きく、母親が娘に対して負い目を感じてしまうようなケースもあります。告知された当事者に寄り添う相談支援やカウンセリング体制の整備が必要です。子宮がない女性誰もが移植を選ぶとは思いませんが、子どもを授かる選択肢を提供できる点で意義深いと思われます。病気の当事者への配慮とともに、子どもを持ちたいと考えた時に、養子縁組など、子宮移植以外の選択肢も含めて話し合うこともできます。
(2023年1月29日 読売新聞)
(吉村 やすのり)