働き手が企業や産業を移る動きが、日本では鈍いままです。労働移動を政府として促す背景には、大企業を中心に根付いてきた終身雇用があります。転職者の割合は、過去20年間、働く人の4~5%ほどで、2019年には過去最高の351万人に達しましたが、働く人に占める割合はあまり変わっていません。
雇用の維持・確保の重要性を確認する一方、コストを引き下げるために、賃金の抑制や正社員以外の雇用形態も広く認めてきています。失業率は、先進国でもとりわけ低い水準に抑えられてきました。その代わり、正社員を非正規に置き換えたり、賃金水準そのものを抑えてきています。OECD加盟国の中で、平均賃金が20年にわたって上向いていない数少ない国の一つです。
雇用を守る日本の政策の代表例が雇用調整助成金です。企業が社員を解雇せずに休ませた時、休業手当を国が補助します。リーマン・ショックやコロナ禍では補助を手厚くし、仕事がなくなった産業でも雇用を維持してきました。仕事がない産業に働き手が留め置かれ続けたことは、それ以外の産業で人手不足が改善されない弊害も生んでいます。
失業をただタブー視するのではなく、迅速に再就職できる支援をしたうえで労働移動を促すべきです。正社員の雇用維持を最重要視したままでは、現状打開は難しいとの見方もあります。正社員の間では、年功序列型の賃金体系が根強い点を課題と考えられます。どんな条件で人員削減が許されるのかといった雇用調整のルールを見直されなければ、企業は新たな採用はできません。ポストも空かないので、若手が能力を発揮する機会に恵まれず、賃金や生産性も上がらない状況に陥っています。
(2022年4月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)