第三者が提供した精子で行う人工授精(AID)を安全に進めるため、独協医大が協力する民間の精子バンクが動き出しました。大学が協力する本格的なバンクは国内初です。AIDは、無精子症などの不妊夫婦が対象になり、国内では1948年から行われており、現在は、産婦人科医らでつくる日本産科婦人科学会の登録医療機関(全国12か所)が実施を認められています。2018年には1,100組以上の夫婦に3,380件行われ、130人が誕生しています。
国内の実施件数の半数を占めていた慶應義塾大学病院では、2018年よりドナーに対して、生まれた子どもが出自を知る権利を行使する場合には、個人情報を開示する可能性があることを同意書に明記しました。それにより、提供者が急減し、現在新規受け入れを中止しています。こうした出自を知る権利を認める動きが、海外で広がり始めています。
4月に設立された精子バンクであるみらい生命研究所は、希望すれば匿名を確約することで、提供者不足の解消を目指しています。提供者が、生まれた子が個人情報をたどれる非匿名か、たどれない匿名かを選択できる仕組みとし、提供を受ける夫婦もどちらかを選べるとしています。1件あたり15万円程度で登録医療機関に提供することにしています。利用できるのは、登録医療機関で治療を受ける不妊夫婦で、精子バンクと直接やりとりはしないことになっています。
超党派の生殖補助医療の在り方を考える議員連盟では、第三者の精子や卵子を使った生殖補助医療の親子関係を定める民法特例法を見直し、出自を知る権利を保障するために、独立行政法人で提供者情報を保存するとした素案を今夏に作成するとしています。出自を知る権利が法律で明文化されれば、その後は匿名の選択肢はなくなる可能性もあります。
(2021年7月14日 読売新聞)
(吉村 やすのり)