出生率は、2005年に底を打ってから緩やかに回復してきましたが、ここ3年は低下が続いています。2018年に生まれた子どもは91万8,397人と、3年連続で過去最低を更新しました。来年には90万人を切ることは確実です。1人の女性が生涯に産むと推計される子どもの数を合計特殊出生率と言います。政府が本腰を入れたきっかけは1989年の出来事でした。それまで戦後の合計特殊出生率は、丙午の1966年の1.58が最低でした。1989年にこれを下回り、1.57ショックと呼ばれていました。
結婚観の変化や働く女性の増加、男女の役割分担の意識変化、子育てにかかる経済的な負担増が少子化の原因と考えられています。政府の少子化対策も大きく3つに分類できます。①子育ての経済的な負担の軽減、②仕事と子育ての両立支援、③結婚支援の3つです。
経済支援は少子化対策の柱です。今年10月には消費税率10%への引き上げにあわせて、3~5歳は幼稚園や保育園などの利用料を原則無料にします。所得制限はつけません。子どもの教育にかかる負担が、子どもを持つことへの大きな制約となってきました。しかし、他の先進国と比べて充実しているとはいえません。国立社会保障・人口問題研究所によると、2016年度の家族関係社会支出は、国内総生産(GDP)比で1.29%で、英国の3.57%などに比べてかなり低率のままです。財政が厳しい一方で、高齢者向けの社会保障支出が膨らみ、少子化対策に大胆な予算を割り振ることができていません。
2本目の柱は仕事と子育ての両立支援策です。1991年に育児休業法が成立し、1997年以降は共働き世帯数が専業主婦世帯数を逆転しました。2003年には、一定規模の企業に子育て支援計画の作成を義務づけた次世代育成支援対策推進法が成立し、企業の意識改革も始まっています。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、いずれ結婚しようと考える未婚者の割合は男女ともに8~9割に上っています。それでも結婚に踏み切れない理由には、経済不安や出会いの減少などがあります。結婚しやすい環境づくりのためにも若者が安定的な職に就くための支援に、本気で取り組む必要があります。
フランスやスウェーデンはかつて出生率が1.5~1.6まで落ち込みましたが、その後に様々な政策により、最近では1.9前後まで回復しています。経済支援とあわせて、効力があったとみられているのが、保育サービスの充実や働き方改革です。男女が同じように無理なく働ける共働き社会を実現した国は出生率が回復し、男性が稼ぎ手のモデルを続けた国は低迷し続けています。共働き世帯を前提に少子化対策を考えるなら、男女ともに仕事と子育てを両立できる働き方ができなければなりません。これまでの政策においては、少子化対策と働き方改革の関連を前面に打ち出してきていません。少子化対策のための働き方改革が今後の課題となります。
(2019年6月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)