総務省消防庁の資料によれば、昨年の救急出動件数は約764万件で、統計を取り始めた1963年以降で最多となっています。搬送者の半数近くは入院に至らない軽症者でした。2022年の119番通報から現場到着までは平均約10.3分、病院搬送までの時間は平均47.2分で、ともに延びています。高齢化に伴い、体調不良を訴える人や、自ら病院に行けない単身高齢者が増えていることが背景にあります。
2台に1台の救急車が軽症患者を運んでおり、重症患者に手が回りません。昔なら助かった命が今は助からないとの指摘もあります。しかし、119番通報の線引きを市民が判断するのは難しく、通報をためらう人が出てくる懸念もあります。自治体によっては、軽症者の搬送の場合お金を徴収されることもあります。救急車で運ばれてきた軽症患者から選定療養費を取ることは、厚生労働省が認めており、既に徴収している医療機関もあります。茨城県のように、自治体主導で取り組む事例が出始めています。
しかし、選定療養費を徴収する判断の線引きも困難です。救急医療が逼迫している事情は十分に理解できますが、実質的な救急車の有料化とも言える運用変更は、生活困窮者らの受診抑制につながる懸念も出てきます。一時的に軽症者が減っても、住民にとって選定療養費が当たり前になれば、軽症者の利用が元に戻る可能性はあります。住民一人一人が地元の救急医療体制について知り、救急車の適正利用について考える契機にすべきです。
(2024年12月4日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)