教育の無償化がもたらすもの

2019年10月、幼稚園や保育所にかかる費用が無料になります。消費税増税による増収分の一部が財源で、女性の就労支援と少子化対策がねらいです。女性がますます働きやすくなると期待がかかる一方、待機児童問題が悪化する懸念もあります。無料になるのは、幼稚園や保育所に通う3~5歳の全ての子どもと、保育所に通う0~2歳の住民税非課税世帯の子どもです。上限はありますが、認可外施設なども対象です。待機児童の9割は0~2歳児です。無償化の多くは3歳からですが、2歳児以下の待機児童が増える可能性もあります。3歳で預けようとしても、2歳から持ち上がる子どもが多くて入りにくいため、前倒しで2歳以下から預ける人が増えることが予想されます。
待機児童解消に向け、自治体は受け皿整備を急いでいます。民間中心に増やしていますが、課題は保育士の確保です。国内総生産比でみた日本の幼児教育への公的投資は欧州のおおよそ半分です。中途半端な投資は中途半端な効果しか生みません。保育の質確保、受け皿整備、教育や医療など総合的な子育て支援が必要となります。
無償化で潜在的な保育需要が喚起されますが、それはつまり企業が潜在的な労働力を確保することです。未就学児を持つ非就労の母親への調査では、働きたいと考える女性が6割もいます。圧倒的な労働力不足の中、保育の受け皿確保は極めて有効な解決策になります。2023年時点の政府目標である女性就業率80%を達成するには、現在の受け皿の整備計画では足りません。さらに279万人分が必要となります。
受け皿を整備したくても、保育士が確保できない状況にあります。そこで資格を持ちながら働いていない潜在保育士を活用することが大切です。潜在保育士の6割は、保育士として働きたいと考えています。試算によれば5.6万人に上り、これで17万人の保育の受け皿が整備可能となります。彼らが求めているのは必ずしも高い報酬ではなく、柔軟な働き方です。報酬も重要ですが、短時間勤務などライフスタイルにあった働き方を求めています。それが結果的に保育士の処遇改善や質の確保にもつながります。
女性就業率80%が実現した場合、新規就労者46.1万人、最低で年間3.8兆円の経済効果が見込めます。一方、追加の受け皿整備に必要なのは4千億円、運営費に年3千億円弱です。ある調査によれば、保育の受け皿が充足すれば、もう一人産みたいと考える母親が66%もいます。ここから保育の受け皿が整備された場合に期待できる合計特殊出生率を試算すると1.78になり、国が掲げる1.8と同水準になります。

 

(2019年1月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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