政府は、教育費の個人負担を軽減して子育てしやすい環境を整えるために、幼児教育や大学の無償化などが議論され始めています。少子高齢化や長寿命化に伴い、教育の重要性は増しています。教育効果の大きい幼児期をはじめ、高等教育や社会人と継続的に教育の機会を充実させることにより、寿命が長くなってきても再就職などの機会が得られやすくなります。
就学前教育への投資が、最も学力や収入を高める効果が大きいという研究成果も得られています。貧因の連鎖を止めることや女性の社会進出の後押しになります。政府は、幼稚園や保育園といった幼児教育の無償化を目指しています。保育にかかる負担が少なくなれば育児と仕事の両立を図りやすく、女性活躍も推進できます。こども保険構想は、社会保険料を働く人と企業から0.1%から最大で1%ずつ上乗せして徴収し財源を捻出するものです。0.5%ずつの場合は、約1.7兆円の財源が確保でき、小学校入学前の子ども約600万人に児童手当を月2万5,000円加算できます。0~3歳未満の場合、現行制度では一律1万5,000円支給されていますが、こども保険給付金を加えると支給額は一律4万円に増えます。しかし、現役の勤労世代に負担を求めるため、子どものいない世帯などから理解を得られるかが課題です。
一方、大学など高等教育の完全無償化には巨額の財源が必要となります。高等教育への進学率は、2016年度に過去最高の8割に達しています。返済型の奨学金に加え、2018年度からは給付型の奨学金も創設されます。貧しい家庭に生まれても大学に進める環境整備は進んでいます。しかし、課題は財源です。文部科学省の試算では高等教育の無償化に年約3.7兆円の財源が必要になります。教育に使途を限定して国債を発行する教育国債が検討されています。
政府が無償化を検討する幼児教育や大学などの教育費は、これまで家庭が支払ってきたお金です。国の財政に余裕があれば、全ての授業料を国が負担することが理想です。しかし、今の日本の財政状況でそうした余裕はありません。まずは幼児教育の無償化から実施されるべきと思われます。その際、現在児童手当は現金給付となっていますが、こども保険からの支給に関しては現物給付を考慮すべきです。
(2017年9月19日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)