新型コロナウイルス感染症では、日本を含むアジア地域の死亡率の低さが目立っています。高いのは欧米で、人口当たりの死亡者数には約100倍以上の差があります。生活習慣の違いや基礎疾患を持つ割合など、複数の要因が絡んでいるとみられます。人口100万人当たりの死者数が多いのは、ベルギーの784人やスペインの593人です。イタリア、英国、フランスなどがこれに続きます。これに対し、感染が初めて確認された中国は3人にとどまっており、日本は6人、韓国も5人と少数です。インドでも2人です。
重症になったりする割合が、人種や民族でどれほど違うのかは明確ではありませんが、さまざまなことが考えられています。まずは人種間の遺伝子の違いです。解析技術の進展で白人や黒人、アジア人などで遺伝子情報に微妙な差があることが分かってきています。そうした遺伝子の違いが、死亡率の差に関係している可能性があるかもしれません。欧米などでは、新型コロナ患者が持つ遺伝子配列と重症化の関係などを調べる複数の国際共同研究が始まっています。こうした研究により、異なる地域で同じ遺伝子変異が見つかるかなどを検証できます。重症化率や死亡率の差を説明できる重要な遺伝子が分かるかもしれません。
結核を予防するBCGワクチンを接種する国では、新型コロナ患者が少ない可能性があることも話題になっています。接種国の日中韓などに比べ、定期接種を導入していないイタリアや米国などは、感染者や死者の割合が高くなっています。しかし、イスラエルの研究チームの報告によれば、小児期にBCGを接種した人としていない人との間で、新型コロナのPCR検査では、陽性率に統計的な差はないとしています。いずれにしても、今後の検討課題の一つです。
文化や習慣の違いが感染拡大影響したとの指摘もあります。マスク着用や手を洗う習慣の有無、挨拶で握手やハグするかなどです。マスクは飛沫感染のリスクを下げる効果が期待できるとの報告があり、マスクを着ける習慣がある日本などで効果を発揮した可能性があります。また、肥満などの基礎疾患が少ないことも関係しているかもしれません。
Yale大学のIwasakiらによって、日本における死亡者の少ない理由について、文化や生活習慣の違い、BCG接種の有無以外に、HLAタイプの差違、新型コロナウイルスの受容体であるACE2レセプターの差違、今回のCOVID-19感染の以前に軽症型ウイルスに感染していた可能性などが推論されています。ウイルスは人から人に伝播する過程で変異を繰り返してゆきますが、各国におけるウイルスの遺伝子型の検査とともに、民族間における遺伝情報についての検討も今後必要となります。
(2020年5月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)