新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、多くの人が感染して免疫がつけば終息しますが、世界中で数百万人に上る犠牲者が出る可能性があります。そこで期待がかかるのが、感染を予防できるワクチンです。新型コロナウイルス感染症を予防するワクチン開発が世界で進んでいます。実用化には早くても1年~1年半はかかるとされ、開発に成功しても、接種を始めるには国内での有効性や安全性の確認も必要となります。
医薬品として承認されるまでに、安全性や有効性を確かめる臨床試験を実施する必要があります。臨床試験は3段階に分かれます。動物実験の後、第1相試験として数十人の健康な人に対し、少量から少しずつ投与量を増やしていき、安全性を確かめます。第2相では、より多くの人に、安全が確認された量を投与し、効果や接種の間隔などを探ります。次の第3相では、数百人から数千人を対象に効果や安全性を確かめます。臨床試験が終わると、日本では国に承認を申請し、審査手続きに移ります。提出された資料を基に、品質などについての1年ほどの審査を経て、ようやく販売されることになります。
今のような世界的な大流行が進行している状況で、これだけの期間を待つことはできません。国民の健康に重大な影響を及ぼす事態には、海外の医薬品を緊急輸入できます。有効性や安全性の確認手続きを簡略化した特例承認という制度があります。2009年に新型インフルエンザが流行した際には、これを利用して欧州2社のワクチンが輸入されました。新型コロナウイルスのワクチンが海外で先に開発されれば、この制度で数か月以内に接種できる可能性もあります。
ワクチンは、はしかや風疹、インフルエンザなどの感染症で実用化されています。ワクチンには毒性を弱めた病原体を入れた生ワクチン、死んだ病原体のたんぱく質を入れた不活化ワクチンなどがあり、接種すると、その病原体に対する体の抵抗力が上がります。新しいワクチンを開発し生産するには、ワクチンに入れる病原体を、人工的に大量に増やす方法を見つける必要があります。
感染研は、別のウイルスに新型コロナウイルスの遺伝子を組み込み、ワクチンになるたんぱく質を大量生産する方法で開発を目指しています。米バイオ企業モデルナは、新型コロナウイルスのRNAと呼ばれる遺伝物質を接種するワクチン作り、第1段階の臨床試験を3月中旬に始めています。こうしたワクチンは工場で大量生産しやすく、ワクチンの開発時間を大幅に短縮できることが期待できます。しかし、このタイプで実用化した人間用のワクチンがなく、効果や安全性は未知数です。
(2020年4月5日 読売新聞)
(吉村 やすのり)