新型コロナウイルス感染症が国内で確認されて1年が経過しました。ワクチンや治療薬の開発は進んだものの、依然として感染拡大が続き、収束への道筋は見えていません。グローバル化、都市の巨大化、人の動きの活発化により新型コロナウイルスは増殖し、パンデミックを起こしてきています。ウイルスはいつの時代も存在していますが、パンデミックになるかどうかは人間側の要因で決まると思われます。
これまで様々な感染症が歴史を変えてきました。欧州で14世紀にペストが流行し、人口が減少、教会の権威が失墜し、封建制度の崩壊が始まり、ルネサンスにつながっています。江戸時代の終わりには、コレラや天然痘が大流行し、明治維新につながりました。今回の新型コロナウイルスは、ポストコロナ社会にどのような変化をもたらすのでしょうか。
ウイルスは、そもそも寄生する宿主がいないと存在できません。攻撃すれば相手も強くなろうとします。際限のない軍拡競争のように闘うのではなく、ウイルスを社会に取り込んでいくという感覚が必要なのかもしれません。強制的に力で封じ込めに成功しても、その社会の弱点をつき、流行るまた新しいウイルスが出てきます。そのため、柔軟に対応できるレジリエント(復元力のある)な社会に変貌を遂げることが必要です。つまり、ウイルスとの共生です。
このコロナウイルスの感染を目の当たりにして、感染には国境がないことを思い知らされました。現代の人々の活動、経済や社会の仕組みが、国境を越えたものとなっていることを実感させられています。あらゆるものが国境を越えて流動化する、いわゆるグローバリゼーション、これまでは先進国の発展のキーワードとして考えられてきましたが、負の側面を露わにしたとも言えます。さらに自国優先の思考いわゆるナショナリズムが顕著になっている現在、自国の利害のみに向けた行動が、いかに無力であるかを示しています。お互いの違いを認め、多様性を理解し、尊重し合うことの大切さを教えてくれるような気がします。
現在の世界の危機的状況にあって、国際協調を通して解決していくことが不可欠であり、世の中の流布に惑わされず、主体的な独立自尊の精神を持って困難を乗り越えていかなければなりません。自然科学や人文社会学にわたる広範な学問やエビデンスに基づく知の基盤を結集して、現在人類が直面している危機的課題に対処することが求められています。
(2021年1月15日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)