新型コロナウイルスに対するDNAワクチン

新型コロナウイルスで、DNAワクチンという新たなタイプの実用化が進んでいます。8月にインドで初めて緊急使用許可を取得しています。最終段階の治験では、デルタ型が猛威をふるう中で実施され、発症を防ぐ効果は67%とされています。2回接種後、死亡や重症化した例はみられていません。
DNAワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝子の一部を運び役となる物質であるプラスミドに組み込んで注射します。細胞内でDNAを放出し、それをもとにメッセンジャーRNA(mRNA)を介して、ウイルスのたんぱく質が作られます。それを免疫が記憶することで、感染防御などに役立つ仕組みです。これまで家畜向けなどで実用化されていただけでした。新型コロナワクチンでは、mRNAを使うものが先行しました。
mRNAは分解しやすいための油の膜で包み、低温での保管も不可欠です。人工合成による製造にも手間がかかります。一方、DNAは安定しており、そのまま投与できて、特別な低温管理が不要です。大腸菌などを使い容易に製造できるため、製造コストも抑えられます。DNAも数週間から数カ月以内に分解されるため、安全性も高いと言われています。課題は、mRNAワクチンよりも免疫反応が起きにくいため、28日間隔で3回接種しなければなりません。
投与方法にも工夫がいります。注射ではなく、皮膚に押しつけて噴射する既存の機器を使い、皮膚の表面近くに投与します。免疫を担う細胞が皮下よりも表面近くに多いため、免疫反応が高まるとされています。

(2021年10月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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