新型コロナウイルスのパンデミックが教えてくれているもの

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、多くの人が感染して免疫がつけば終息しますが、世界中で数百万人に上る犠牲者が出る可能性があります。感染症は、近年死亡原因トップのがんとは全く異なります。新しい感染症は治療法がない場合、今回のパンデミックのように伝播してあっという間に患者が増えます。一方、がんは発症率や治癒率も年間を通して変化せず、医学的知見の積み重ねにより、一定の医療的成果が得られるようになってきています。WHOがパンデミックを宣言した新型コロナウイルの感染拡大や流行は、長期化するとの見方が強くなっています。そこで期待がかかるのが、感染を予防できるワクチンです。新型コロナウイルス感染症を予防するワクチン開発が世界で進んでいます。実用化には早くても1年~1年半はかかるとされ、開発に成功しても、接種を始めるには国内での有効性や安全性の確認も必要となります。今回の新型コロナウイルスも含めて、ウイルス感染症の克服にはワクチン開発しか解決の道はありません。
人類は古代より、パンデミック感染症との戦いでした。中国と欧州を結んだシルクロードにより、商人の盛んな交流に伴い、インドが起源とみられる天然痘も東西に波及しました。中世になると、欧州で黒死病とも言われたペストが猛威をふるうことになります。ペストは中央アジアで発生したと考えられ、13世紀にモンゴル帝国が西方に遠征することにより欧州に伝わりました。交易が活発化しており、ペストは欧州全域に波及し、欧州の人口の3分の1が死亡したとされています。さらにコロンブスの新大陸発見により、米大陸に天然痘が伝わりました。米大陸の先住民には天然痘の免疫がなく、そこにスペイン人が天然痘を持ち込み、先住民の間で大流行しました。死者が続出し、現在のメキシコにあったアステカ王国と、ペルーなどにあったインカ帝国は滅亡することになります。
19世紀、インドで流行していたコレラが一気に広がり、中東や東南アジア、中国、日本などに波及してきました。コレラは、19世紀から20世紀初めにかけて世界的な大流行を繰り返しました。第一次世界大戦末期、スペイン風邪と呼ばれたインフルエンザが欧州で流行しました。米国で始まったスペイン風邪は欧州戦線の参加により、海路で持ち込まれました。世界中で数千万人、大正時代の日本でも約40万人が死亡しています。歴史上、このように感染症は人やモノの移動に伴って波及してきました。そして、それぞれの感染症のパンデミックにより、さまざまな権力や社会構造の変容が起きています。ペストにより中世の封建的身分制度が崩壊し、天然痘によりアステカやインカ帝国が滅亡し、コレラの大流行によりインフラの整備が進みました。
今やグローバル化は格段に進み、ウイルス感染症の広がり方も、これまで世界が経験した感染症に比べて圧倒的に速くなっています。人類は、このコロナウイルスの感染拡大を目の当たりにして、感染には国境がないことを思い知らされました。現代の人々の活動、経済や社会の仕組みが、国境を越えたものとなっていることを実感させられています。あらゆるものが国境を越えて流動化する、いわゆるグローバリゼーション、これまでは先進国の発展のキーワードとして考えられてきましたが、負の側面を露わにしたとも言えます。さらに自国優先の思考いわゆるナショナリズムが顕著になっている現在、自国の利害のみに向けた行動がいかに無力であるかを示しています。アメリカやスペインの状況をみていると、都市封鎖の有用性についても疑問を投げかけざるを得ません。新型コロナは、現在の民主主義に突きつけられた挑戦状かもしれません。今回のパンデミックは、お互いの違いを認め、多様性を理解し、尊重し合うことの大切さを教えてくれるような気がします。
現在の世界の危機的状況にあって、国際協調を通して解決していくことが不可欠であり、世の中の流布に惑わされず、主体的な独立自尊の精神を持って困難を乗り越えていかなければなりません。自然科学や人文社会学にわたる広範な学問やエビデンスに基づく知の基盤を結集して、現在人類が直面している危機的課題に対処することが求められています。過去の感染症のパンデミックをみると、大きな社会の変革をもたらしてきています。被害を最小限に抑えつつ、それぞれの集団の中で一定の人数が免疫を獲得すれば流行は終わります。大切なことは、今回のパンデミックにより、どのような社会の変革をするかにかかっています。新型コロナのパンデミックは、現代社会に対し何が大切かを教えてくれているような気がしてなりません。

(吉村 やすのり)

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