新型コロナウイルスに感染した場合、男性の方が死亡する確率が高くなっています。厚生労働省によれば、昨年12月28日までに国内で新型コロナに感染して亡くなった男性は1,898人、女性は1,214人です。死亡率は、男性が1.6%なのに対し、女性は1.2%でした。英国などのチームの報告によれば、死亡する確率は男性の方が1.39倍高くなっています。男女の死亡率の違いは、過去の感染症でも報告されています。SARS(重症急性呼吸器症候群)では、男性の方が1.66倍死亡率が高く、MERS(中東呼吸器症候群)では、男性の死亡率が52%だったのに対し、女性は23%でした。
重症化のメカニズムとして、男女の免疫応答の違いが考えられています。免疫システムは、まず生まれながらに持っている自然免疫が働き、次に攻撃力の強い獲得免疫が働きます。免疫細胞からはサイトカインというたんぱく質が出ます。自然免疫でこれが過剰に出ると、正常な細胞も攻撃するサイトカインストームが起き、新型コロナ重症化の一因とされています。
感染した男性は女性よりもサイトカインが多く現れ、獲得免疫は女性の方が活性化しています。特に高齢男性では、自然免疫で過剰な反応が起きていた一方で、獲得免疫の反応が弱い傾向が分かっています。自然免疫が強くなり獲得免疫が弱くなるのは、男女共通の傾向で老化によって起こります。しかし、男性の方が免疫システムの老化がより強く表れることが、高齢男性の重症化につながると考えられています。
免疫応答の違いには、遺伝子や性ホルモンが影響すると言われています。性別の決定にかかわるX染色体には、免疫にかかわる遺伝子が多く含まれていますが、女性が2本持つのに対し、男性は1本しかありません。新型コロナの重症化には性差がありますが、原因は複雑で特定は難しく、大事なのは、原因の特定よりも、性差があることを踏まえた治療戦略を考えることです。
(2021年1月10日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)