新型コロナウイルスの治療薬として、これまでに国内で承認されたレムデシビルやデキサメタゾンは、他の疾患向けの薬を転用したものです。コロナ治療薬開発の序盤は、このドラッグリポジショニングが絶大な効果を上げていました。短期間で市場投入できるうえ、副作用の有無など人体への影響についてもデータがそろっています。
最近、さまざまな技術でコロナ治療薬の開発が進んでいます。国内メーカーの製品は得意とするバイオ技術を使った新薬が多くなっています。武田は米CSLベーリングなど世界11社と連携し、新型コロナから回復した患者の血液から、免疫をつかさどる抗体を抽出して製剤化することを目指しています。
再生医療に使われる細胞医薬の技術も使われています。ロート製薬は人間の脂肪から採取した間葉系幹細胞を使っています。幹細胞の中には炎症部位に集まる性質を持ったものがあります。コロナ感染症が重症化すると、免疫機能暴走し、自分の体を傷つけることが明らかになっており、細胞医薬はこうした暴走を抑える効果が期待されています。
DNAやRNAといった遺伝情報をつかさどる物質である核酸を薬として使う核酸医薬の開発も進んでいます。核酸が持つ、特定の物質と結合する性質を生かします。細胞内でウイルスの遺伝子と結合し、増殖を阻害します。たんぱく質の材料であるアミノ酸が結合したペプチドを使うペプチド医薬も注目されています。
新型コロナを巡っては、重症化までのプロセスが徐々に明らかになりつつあります。スピード重視の転用組と、多様な創薬手法による新規開発組、それぞれが競うことで治療薬のバリエーションが広がれば、感染の進行や患者の状態に合わせたきめ細かい治療が可能となるかもしれません。
(2020年12月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)