新型コロナウイルスの進化

デルタ型やオミクロン型と次々に変異型が現れる新型コロナウイルスですが、実は変異の速度は小さいと考えられています。ゲノムに入る変異は、1年間あたり24~25個です。ゲノム全体からすれば、0.2%しか変わっていません。変異を進化と考えると、その速度はインフルエンザウイルスの半分以下です。エイズウイルス(HIV)よりも小さいとされています。
新型コロナウイルスは遺伝情報を載せたRNAという物質を携えています。文字にあたる塩基が約3万個あり、ヒトの体でウイルスは子孫を残そうと増殖します。複製時のミスなどで、遺伝情報となる4種類の塩基の配列が変わり、変異が起こります。インフルエンザウイルスを含むRNAウイルスの仲間のうち、コロナウイルスは、ミスの修正作用により、変異が入りにくいとされています。
ウイルスは自ら増える生物とは異なり、生物に依存して増えます。生物が進化を続ける中で、ウイルスが共に繫栄していくには、遺伝情報の変化が頼りです。新型コロナウイルスには世界で4億人を超える人が感染しました。今まで無かったような変異を持っていてもおかしくはありません。新型コロナウイルスは、流行の主流がデルタ型から症状が軽いとされるオミクロン型へ移りました。いずれは風邪のウイルスのように弱毒化すると思われます。一般にウイルスの感染拡大には、感染力が高くても相手の命を奪わない風邪のようなウイルスの方が流行を繰り返しやすくなっています。
歴史上、インフルエンザなどの様々なウイルスが人類に感染し、変異を繰り返してきました。今も生き残るウイルスは、確かに勝者ではありますが、今後も勝者であり続けるとは言い切れません。変異は一つ間違えば、退化の道に足を踏み入れます。偶然が支配する世界でウイルスも必死です。もともと高い病毒性が変異で下がったとしても、感染・伝播性が向上しており、結果として症状の悪化につながることも多いので注意は常に必要です。

 

(2022年3月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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