新型コロナウイルスに感染後、精子が減ったという報告が海外で相次いでいます。イタリアの研究チームは、新型コロナに感染した男性の精子の状態を調べた結果、新型コロナから回復した43人のうち、4分の1にあたる11人が、精液中に精子がない無精子症や精子が少ない乏精子症でした。ドイツの研究チームも、感染者は健康な人に比べ、精子に悪影響を与える炎症や酸化ストレスを示す数値が有意に高くなっています。
感染症が精子に影響を与えるメカニズムとしては、一つは、ウイルスが精巣内に入り込み、精子の元になる精原細胞が攻撃を受ける場合です。もう一つは、高熱の影響で精巣も熱にさらされ、精子が死ぬ場合です。おたふく風邪の原因のムンプスウイルスやジカ熱を起こすジカウイルスは、精巣内の細胞が感染して攻撃を受けます。インフルエンザウイルスなどでは、高熱の影響で精子が死滅します。
中国の研究チームは、精巣内に新型コロナウイルスの受容体であるACE2が、精巣内にあることを報告しています。理論上は精巣内の細胞も新型コロナに感染する可能性がありますが、実際に感染した精液のPCR検査では、ウイルスは検出できないとの報告もみられています。精子をつくる精原細胞が感染したと証明する報告は未だみられていません。
新型コロナは感染すると過剰な免疫反応が起き、血管が炎症を起こします。そのため、精巣内の毛細血管も損傷を受けて精巣内に炎症が起きると、精原細胞が死んだり、精巣内にウイルスが紛れ込んだりする可能性は否定できません。
(2021年3月28日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)